日本教育の敗北|「ケーキの切れない非行少年たち」宮口幸治

児童精神科医として医療少年院で勤務した経験をもとに、非行少年の実態、教育の問題点を取り上げている。

窃盗、恐喝、暴行、傷害、強制わいせつ、放火、殺人などさまざまな罪を犯した少年たちが収容される少年院。

こういった罪を犯す子供たちに対して、あなたはどのような感情を持っているだろうか。

「もともと悪人の素質があったのだろう」「親の育て方が悪いのだろう」と思う方もいるのではないだろうか。

しかし、著者が見た非行少年たちの実態は、かなり深刻な問題をはらんでいたようだ。

非行少年たちが見ている世界

医療少年院に収容されているある少年に、「この絵を見ながら同じ絵をかいてみて」と言ったところ、少年は似ても似つかない絵を描いた。

何となく形は合っているものの、細部が全く違う。

このことから、著者は「非行少年たちには世の中全てが歪んで見えているのでは?」と考える。

 

見る力が弱いということは、聞く力も同様に弱いと考えられる。

つまり、少年たちには大人の言っていることが理解できていない可能性があるということだ。

先生や親に注意されてもわからない、「こうしなさい」と言われたことが理解できない。

大人達は言うことを聞けない少年たちを叱る。

少年たちは自分がなぜ怒られているのかわからないので、罪の自覚がない。

 

ただ、「大人に怒られる」というのは嫌なことには違いないので、その場は適当に謝ってやり過ごす。

「ごめんなさい」と謝っても、何が悪いのかわからないのでまた同じことを繰り返す。

「なぜこんなことをやったのか」と質問しても、多くの非行少年たちは「難しくて答えられない」と答えるそうだ。

つまり、自分の非行と向き合うことができない、「反省以前の問題」ということになる。

 

非行少年の多くは、簡単な計算ができない、漢字が読めない、簡単な図形が写せないなどの問題を抱えている場合が多い。

それによって友達にいじめられたり、親から厳しい折檻を受ける、先生に怒られるといった経験をする。

そのうちに学校に行かなくなり、万引きや暴力などの問題行動を起こしてしまうケースが多いという。

そう言った少年たちは、軽度知的障害や境界知能が疑われるのだが、学校で気づかれることなく中学生、高校生となり、やがて問題を起こして少年院へ行くケースも多い。

 

最近の教育の傾向として、「いいところを褒めて伸ばす」というやり方が一般的になっている。

しかし、いいところを伸ばしたとしても、何か問題となる行動があるならばそれを改善しない限り、何も解決したことにはならない。

ただ問題の先延ばしをしているだけにすぎないのだ。

非行は突然降ってきません。生まれてきてから現在の非行まで、全て繋がっています。もちろん多くの支援者がさまざまな場面で関わってきた例もあります。でもその支援がうまくいかず、どうにも手に負えなくなった子どもたちが、最終的に行き着くところが少年院だったのです。子どもが少年院に行くということはある意味、“教育の敗北”でもあるのです。

「ケーキの切れない非行少年たち」宮口幸治

ケーキの切れない非行少年たち

非行少年たちにケーキの絵を見せて、「このケーキを3等分して」と言ったところ、多くの子供が均等にケーキを切ることができないという。

図を見るとわかると思うが、明らかに等分になっていない。

普通であれば、放射状に3本の線を入れて分ければいいとすぐに分かるが、物事が歪んで見えている非行少年たちにとっては、ケーキを3等分にすることすら難しいのだ。

ケーキの切れない非行少年たち

 

今まで彼らがどのように生きてきたのか、どれほど生きにくかったか想像がつくだろう。

こういった子供たちに、従来の矯正教育を行ってもほとんど効果は得られない。

「反省しろ」と言われても、何を反省するべきかわからないのだから、直しようがないのだ。

非行少年に共通する特徴

非行少年に共通する特徴5点セット+1

・認知機能の弱さ・・・見たり聞いたりする力が弱い

・感情統制の弱さ・・・感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる

・融通の利かなさ・・・なんでも思いつきでやってしまう。予想外に事に弱い

・不適切な自己評価・・・自分の問題点が分からない。自身があり過ぎる、なさ過ぎる

・対人スキルの乏しさ・・・人とのコミュニケーションが苦手

+1身体的不器用さ・・・力加減ができない、体の使い方が不器用

「ケーキの切れない非行少年たち」宮口幸治

非行少年に共通する特徴は以上の通りだが、学校教育では主に「見る力」「聞く力」を通して情報が伝えられるため、以上に挙げた特徴を持つ少年たちはどんどん落ちこぼれていく。

先生や親からは、「やる気がない」「不真面目だ」などと言われ続け、やがて本当にやる気を失ってしまう。

そして問題行動に走るのだ。

 

非行少年たちの問題行動の原因となる感情は「怒り」であり、その怒りは「馬鹿にされた」「思い通りにならない」などの対人関係の問題が原因となっている。

イジメや親からの虐待により、被害的な思考パターンにはまり込み、やがて自分に自信が持てなくなってしまう。

自信のなさは、相手への怒りにつながる。

性非行を行う少年の多くは自分自身がいじめ被害にあっており、ストレスをため込んでいる場合が多い。

そのストレスを発散するために、さまざまな問題行動を行う。

特に性非行に関しては、この傾向が強いという。

 

また、非行少年には融通が利かないタイプが多い。

誰かと目が合っただけで「睨んできた」と絡んだり、周りでひそひそ話をしていると「自分の悪口を言っている」と思い込む。

「勘違いかもしれない」「たまたまだ」という発想ができないのだ。

彼らは、相手に対して「こうしてほしい」「自分は正しい」「こうあるべきだ」といった固定観念が強く、そのため対人トラブルを起こしやすい。

 

非行少年たちは、とても生きにくい世の中を生きているのだ。

気付かれない人々

1次障害:障害自体によるもの

2次障害:周囲から障害を理解されず、学校などで適切な支援が受けられなかったことによるもの

3次障害:非行化して矯正施設に入ってもさらに理解されず、厳しい指導を受け一層悪化する

4次障害:社会に出てからもさらに理解されず、偏見もあり、仕事が続かず再非行に繋がる

「ケーキの切れない非行少年たち」宮口幸治

非行少年たちは、実はさまざまなサインを出している。

すぐにカッとなる、人とのコミュニケーションがうまくいかない、忘れ物が多い、嘘をつく、じっと座っていられない、先生の注意が効けない、漢字が覚えられない、計算ができないなどなど。

しかしこれらの特徴をよく見ると、普通の教育現場でも起こる子供の問題と共通していることに気が付く。

非行少年だからといって特別に素行が悪いというわけではなく、一般的な子供と非行少年に特別な差はないのである。

つまり、「問題がない」とされている子供でも、何かのきっかけで非行少年になってしまう可能性は大いにあると言えるだろう。

 

子供たちは、問題行動を起こす前にサインを出している。

しかしそれを見ようとしない、見なかったことにする大人。

そして、子供たちのサインを無視し続けた結果、子供が非行に走る。

 

1950年代、知的障害の基準は「IQ85未満」だった。

しかし1970年代以降は「IQ70未満」に引き下げられている。

その理由として、「IQ85未満」を基準としてしまうと、知的障害の割合が全体の16%にもなってしまう。

それほど多くの人に支援をするのは難しいということで、「IQ70未満」が知的障害の基準となったという。

しかし、基準を引き下げたからと言ってIQ85~70未満の人達が消えるわけではない。

一般的に、普通の生活を不自由なく送るには、IQが100ないとなかなか厳しいそうだ。

つまり、何らかの支援が必要であるにもかかわらず、適切な支援を受けられていない人が実はかなりの数存在するということだ。

 

IQ85~70未満の人達は、「境界知能」といわれ、明らかな知的障害ではないが、状況によっては支援が必要な人たちのことを指す。

スポンサードリンク

知能分布から算定すると、35人のうち5人は境界知能。

35名クラスのうち、成績が下から5番目までの子供は、何らかの支援が必要ということになる。

これからの教育

今の学校教育には、対人スキルを身に付ける方法、感情のコントロール法、問題解決力など、統計だった社会面の教育が全くない。

発達障害の子供たちがこういった能力を自然に見つけるのは難しく、しっかりした支援と教育が必要である。

にもかかわらず、自尊感情を上げるための「褒める教育」などという小手先だけの教育しかなされていないのが現状だ。

 

問題は、自尊感情が低いことではなく、自尊感情と現実が乖離していることであり、自尊感情を上げる支援ではなく「ありのままの自分を受け入れる強さ」を身に付けさせることである。

少年院の子供たちが本気で変わろうと思ったきっかけは、家族のありがたみや苦しみを知ったとき、被害者の視点に立てたとき、将来の目標が決まったときだそうだ。

これは誰かに強制されるものではなく、少年たちがハッと気が付く体験を通して得られるものである。

大人ができることは、子供たちに説教をしたり叱責して反省させることではなく、できるだけ多くの気づきの場を与えてあげることであろう。

こういった子供たちには、学習面、社会面、身体面それぞれ支援が必要であり、

「覚える力」「数える力」「写す力」「見つける力」「想像する力」つまり認知機能を育てることが先決である。

著者はこれらの力を伸ばすための認知機能トレーニング「コグトレ」を推奨する。

 

ジョージタウン大学医学部教授のジョナサン・ピンカスによると、脳の「神経学的損傷」「被虐待体験」「神経疾患」の3要因がそろった場合、犯罪に結びつく確率が高いことを警告している。

また、アメリカのエイトリアン・レインらは、殺人者の前頭葉機能が低下(特に前頭前皮質、それに隣接する上部頭頂回、左縁上回、脳梁)していること、偏桃体、視床、内側側頭葉において左半球の機能低下があったと報告している。

つまり、脳機能障害が犯罪の原因の一つとなっている可能性があるということである。

脳機能の異常があるからと言って、犯した罪の責任がすべて障害のせいにできるかと言えば難しい部分ではあるが、これらの脳機能障害について何らかの認知機能トレーニングは矯正現場、再犯率を下げる意味でも必要である。

 

感想

ケーキを等分に切れない。

非行少年が描いたケーキの切り方を見て、かなりショックを受けた。

ふざけているとしか思えないが、本人にとっては考えた末の回答なのだ。

 

義務教育と言われる小学校、中学校で教えるのは、主に学習面だけであり、社会面については「道徳」の時間が週に1度あるだけだった。

しかも、よくわからない道徳のビデオを見せられておしまい。

これだけで社会面を育てるなど、到底無理である。

 

このような教育を受けた人間が、大人になって教師となるのだから、子供に適切な教育をするのは難しいのではないだろうか。

私は常々、何の社会経験もない学生がそのまま教師として働くことに疑問を持ってきた。

今まで「学生」だった人間が、卒業したとたん「先生」と呼ばれるようになる。

「自分は子供たちより偉い」と勘違いしてしまう人間だっているだろう。

教師同士でいじめをしたり、言うことを聞かない子供に対して過剰な叱責を行う教師などは、認知機能が十分に発達しないまま大人になり、教師になってしまった例ではないだろうか。

 

また、学習面についても問題があると思う。

学校が教える「学習」とは、ただ教科書を丸暗記させるだけ。

正直、クソもつまらないし、一人で勉強したほうが雑音が入らないだけマシである。

私は塾に通ったことがないが、塾で教える勉強はビジネスであるから、学校の勉強よりは中身の濃いものだろう。

 

学習もろくに教えられず、社会面の教育は皆無。

支援が必要な子供に対して、全く支援がされていない。

サインを出している子供がいても、気が付くことができない。

あまつさえ、子供に体罰を与えたり嫌がらせをする教師までいる始末。

そして多くの非行少年が生まれている現実。

はたして、学校の存在意義とは何なのだろうか?

私たちは、教師を食わせるためだけに、学校教育に対する税金を支払っているのだろうか。

 

支援が必要であるにもかかわらず、適切な支援を受けられず、放置された結果が非行少年だ。

サインを出しているにもかかわらず学校で気づかれず、社会に出ても気づかれない。

そして自分でも自覚がないままに罪を犯し、犯罪者となってしまう。

恐らく、現在刑務所に収容されている人の中にも、支援が必要であるのに受けられずに犯罪者となってしまったケースは多いのだろう。

本来、社会が守り、支援してあげなければならない人達が犯罪者となっていく。

こんな悲しい現実が、実際に日本で起きているのだ。

そういう現実があっても、多くの人は「自分には関係のないことだ」と思うのだろう。

この本を読んでも、何も残らないのだろう。

日本は、あまりにも不幸な国になってしまった。

 

刑務所にいる受刑者を一人養うのに、施設運営費や人件費を含め年間300万円かかると言われている。

つまり、年間2000億円以上の損失。

消費税を上げる、年金を減らすなどと言った対処療法的な国策を考える暇があるなら、まずは全ての人に適切な教育、支援を受けさせることが最優先ではないかと思う。

 

日本が衰退していく理由は、人に対する無関心、自分さえよければいいというエゴが原因ではないだろうか。

「日本はオワコン」。

自分の生まれた国を悪くは言いたくないが、妙に納得してしまう自分がいる。

 

スポンサードリンク

この記事の著者

この著者の最新の記事

コメント

  • トラックバックは利用できません。

  • コメント (0)

  1. この記事へのコメントはありません。

ページ上部へ戻る